「わが家の葬式」ラストは?

父が長男ではないこともあり、わが家にはずっと仏壇がありませんでした。
ですから私は、「仏壇はおじいちゃんやおばあちゃんの家に行くとあって、そこで親と並んで手を合わせるもの」という認識しかありませんでした。
ところが、4年前、父が突然「うちにも仏壇を置こう」と言い出したのです。
何か特別なきっかけがあったわけではないようです。
父はその前年に定年退職し、悠々自適というほどではありませんが、時間も体も心にも余裕が生まれたことは確かでしょう。
その余裕の中で、それまで仕事に追われていたときには考えもしなかった「仏壇」に目が行って、突然買う気になったというのが本当のところのようです。
いくらぐらいするのか、見当もつきませんので、私がネットで調べました。
もちろんピンキリで、意外に手ごろな値段のものもあります。
なんとなく想像していたよりは安く、「これなら、うちでも買えそう」と思いました。
ところが母が、「仏壇って、それだけ買えば済むというものじゃないのよ。位牌とか仏具とかいろいろ付属品が必要なの」といいますので、一つ一つ調べていくと、これがばかにできないのです。
特に位牌はけっこうします。
ざっと足し算すると、仏壇の安いものよりむしろ付属品のほうが高価になってしまうくらいです。
それを知って、母は猛反対でした。
「位牌だけお兄さん(父の長兄)に相談して作ってもらって、それをお祀りすればいい。それで供養はできるんだから」
父も「そうだな」と答えましたが、明らかに残念そうです。
心の中では「少し出費になるけど、やっぱりちゃんと仏壇を買ってお祀りしたい」そう思っているらしい様子でした。
その後、仏壇の話は出なくなりましたので、父もあきらめたんだな、と思っていたある日です。
母が留守で、わたしが代休で家にいた平日のことです。
父が急に「仏壇、買いに行くからつきあってくれないか。お前の車で行きたいから」
びっくりしました。
父はあきらめきれなかったんです。
それで、母の反対を承知で、怒られるのを覚悟の上で、買おうと決意したのです。
男の心意気、みたいなものを感じました。
同じ男として、それに答えないわけにはいきません。
父を助手席に乗せ、車で大きな仏壇仏具店へ向かいました。
どの店にするかは父がすでに調べていました。
とにかくできるだけ安くあげること、これが父の仏壇選びの最大のテーマです。
もちろん、ふところ事情もありますが、むしろそれ以上に、後で母を納得させやすくするためです。
初めて仏壇店の中に入りましたが、サイズも使ってる木材の種類も、色もデザインも千差万別です。
店というよりちょっとした美術館にいるような気さえしました。
仏壇仏具には、美術品にちかい感じがあることを知りました。
結局、クルミ材の5万円くらいの仏壇を選び、仏具はなるべく一番安いものにして、それでも全部で10万以上にはなりました。
私は「これから代々引き継いでいくものなのだから、むしろ安い買い物だよ」と父に言いました。
ところが、わからないものです。その夜、家に帰ってきた母は、仏壇を見るなりこういったんです。
「あら、いいじゃない。コンパクトで、これなら置き場所にも困らない。私たちの寝室に置きましょうよ。色がシックですてき。やっぱり仏壇はあったほうがいいわ」
父が値段をいうと、「そのくらいしょうがないわよ。安く上がったじゃないの」
後から母に聞いたのですが、父がこっそり仏壇を買いに行くだろうと、母は予想していたそうです。
そんなにほしいのなら好きなようにさせてあげよう、と考えていたんです。
女の直感か、キャリア40年の夫婦ならでは以心伝心か。ともかく、めでたしめでたしの「わが家の仏壇物語」でした。
そしてその仏壇は自分たちの葬式を見越してのことは言うまでもありません。